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最終更新日:2023-03-20

令和5年4月1日から元税理士であったものも懲戒処分の対象に

  • 2023/03/20
令和5年4月1日から元税理士であったものも懲戒処分の対象に

執筆者

宮口 貴志

宮口 貴志

KaikeiBizline論説委員兼編集委員

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。

令和4年度税制改正で税理士制度が大幅に見直され、令和5年4月1日から懲戒処分逃れを抑止する目的から、税理士登録を抹消した元税理士に対しても懲戒処分の対象となる。また質問検査権の行使対象者にも元税理士が含まれることになる。

「懲戒処分逃れ」を封じ込み

令和4年度税制改正を受け税理士制度が見直され、令和5年4月1日から懲戒処分の対象に「税理士であったもの」も含まれることになった。

従来は、懲戒処分を受ける前に税理士資格を自ら返上してしまえば、税理士でなくなったことから懲戒処分を逃れることができた。これを税理士業界では「懲戒逃れ」などと言っていたが、4年度改正で「懲戒逃れ」を抑止する観点から、税理士登録を抹消した元税理士に対する「懲戒処分を受けるべきであったことについての決定」を創設。税理士や税理士法人だけでなく「税理士であったもの」も懲戒処分の対象とすることが決まっている。具体的には、財務大臣は、税理士であったものが、税理士であった期間内に懲戒処分の対象となる行為または事実があると認めたとき、その税理士であったものが懲戒処分を受けるべきであったことについて決定をすることができるとする内容。ただ、財務大臣は、その税理士であったものが受けるべきであった懲戒処分の種類を明らかにしなければならないとされている。

懲戒処分の対象範囲が「税理士であったもの」にも拡大されたことで、懲戒処分等の除斥期間も創設され、懲戒事由から10年を経過したときは、税理士の懲戒手続を開始できないことにもなっている。

このほか、税理士法第55条の質問検査権の行使対象者の範囲に、税理士または税理士法人だけでなく元税理士を追加。虚偽答弁等がある場合に罰則対象になる。罰則こそないものの、取引先や事務所職員、顧問先等の関係人に対して、官公署に対する協力要請制度も創設された。

国税庁、税理士制度Q&Aで処分を例示

「税理士であったもの」も懲戒処分の対象になることを受けて、国税庁の税理士制度のQ&A(https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/index.htm)には、元税理士に対する処分がどのような場合に行われるか示されている。

それによると、元税理士に対する決定は、元税理士に対し不利益をもたらす処分であるため、懲戒処分の構成要件である決定の事由は、法第 45 条及び法第 46 条において明確に規定しているとしている。

1、法第 45 条(不真正の税務書類の作成及び脱税相談等をした場合の懲戒)

⑴ 第1項(故意による特定の不正行為)

税理士が、故意(注1)に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき又は法第 36 条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分の対象とされています(法第 45 条第1項)。(注1)「故意」とは、事実に反し又は反するおそれがあると認識して行うことをいいます(基通 45-1)。

⑵ 第2項(過失による特定の不正行為)

税理士が、相当の注意を怠り(注2)、法第 45 条第1項に規定する行為をしたときは、戒告又は2年以内の税理士業務の停止の処分の対象とされています(法第 45 条第2項)。(注2)「相当の注意を怠り」とは、税理士が職業専門家としての知識経験に基づき通常その結果の発生を予見し得るにもかかわらず、予見し得なかったことをいいます(基通 45-2)。

2 法第 46 条(一般の懲戒)

税理士が、上記1に該当する場合を除き、法第 33 条の2第1項若しくは第2項(計算書類、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき、又は税理士法若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは、戒告、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分の対象とされています。

問6-9 元税理士に対する処分は、どのような場合に行われますか。

法第 46 条の懲戒事由については、告示において以下のとおり対象となる行為が例示されています(問6-11 参照)。

1 法第 33 条の2第1項又は第2項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき(法第 46 条該当)

2 自己脱税(法第 37 条違反)

3 多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ(法第 37 条違反)

4 調査妨害(法第 37 条違反)

5 税理士業務を停止されている税理士への名義貸し(法第 37 条違反)

6 業務け怠(法第 37 条違反)

7 税理士会の会費の滞納(法第 37 条違反)

8 その他反職業倫理的行為(法第 37 条違反)

9 非税理士に対する名義貸し(法第 37 条の2違反)

10 秘密を守る義務違反(法第 38 条違反)

11 帳簿作成の義務違反(法第 41 条違反)

12 使用人等に対する監督義務違反(法第 41 条の2違反)

13 業務の制限違反(法第 42 条違反)

14 税理士業務の停止の処分を受け、その処分に違反して税理士業務を行ったとき(法第 46 条該当)

15 上記以外の場合で法又は国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反

したとき(法第 46 条該当)

としている。

また、Q&Aには、元税理士に対する懲戒処分がどのような手続きで行われるかも示されており、財務大臣が、元税理士に対して懲戒処分等を行うときは、厳格な手続が要請されており、具体的には、国税審議会の議決を要すること、懲戒処分等の通知はその理由を付記した書面によることなどが必要とされ、行政手続法の規定により、懲戒処分等を行うに当たっては、聴聞または弁明の機会が与えられることが示されている。

このほか、Q&Aには、元税理士に対する懲戒処分の基準や「懲戒処分を受けるべきであつたことの決定」を受けた場合、どのような効果があるかなどについてもまとめられている。

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