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最終更新日:2021-03-26

会計事務所が取り組む「地域包括ケア」とは

  • 2017/08/14
  • 2021/03/26
会計事務所が取り組む「地域包括ケア」とは

「医療・介護等サービス提供者とのコーディネート役に」
(一社)全国地域医業研究会代表理事
大塚 雅明公認会計士・税理士


「専門家ネット結成し、無料相談会を切り口に存在感示す」
同研究会理事 駒井 良理税理士

地域に生活する高齢者の住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する目的で、厚生労働省が構築を推進する「地域包括ケアシステム」。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、各自治体が地域の特性や実情に応じた取り組みを進めるなか、税理士業界内で唯一、地域包括ケア体制構築の支援を目的とした、(一社)全国地域医業研究会の「地域包括会計事務所」による取り組みが脚光を浴びつつある。実質的な活動開始から早4年が経過。会計事務所が地域貢献を旗印に、どんな活動で存在感をアピールしているのだろうか。大塚雅明代表(写真左)と駒井良理理事(写真右)に聞いてみた。

―まずは、「地域包括会計事務所」の立ち上げの経緯からお話ください。

医業特化の会計人で発足。平成25年には商標登録も

大塚 地域包括ケア構築が社会保障の主流になっていくことに対して、会計事務所がどのように関わり、また、社会貢献という名の下でどのような支援ができるのだろうかと考えていたところに、効率的かつ質の高い医療提供体制と地域包括ケアシステムに関する法律が施行されたのがきっかけとなりました。これを契機に、会計人ができる総合的なサポート組織として医業に特化した税理士・公認会計士と医療経営支援に積極的な法人で構成した「全国地域医業研究会」を母体に「地域包括会計事務所」を発足。平成25年4月には商標登録しました。

―国が推進する「地域包括ケアシステム」に必要な人的な連携に会計事務所も加わっていこうという考え方ですか。

大塚 はい。「医療」「介護」「予防」という専門的なサービスと、その前提としての「住まい」「生活支援・福祉サービス」が相互に関係し、地域において切れ目なく提供される仕組みを実現していくためには、これまで培ってきた会計事務所の人脈(ネットワーク)を活用することがとても有効だと思います。地域包括会計事務所は、医療や介護、福祉などのサービス提供者のネットワークを構築し、住民の窓口となって、生活支援事業や権利擁護事業をサポートすることが目的にあります。会計事務所は包括システムをワンストップで実現させるためのコーディネート役となるわけです。

―その「権利擁護事業」とはあまり聞かれない言葉ですが。

大塚 権利擁護の範囲には、事業承継や財産管理、資産活用、相続対策等の相談があり、これは、会計事務所のビジネスに直結する事案が潜在的に存在する可能性がある領域でもあります。他士業専門家とのスムーズな連携が行える立場にあるのが、この「地域包括会計事務所」で、社会貢献と同時に税理士の新たなビジネスチャンスの可能性も期待されるところではあります。

駒井 ビジネスの観点から言えば、何がビジネスでどこにチャンスがあるのかなど、手探りの状態にあるのが現状ですね。行政が行っている「地域包括支援センター」の支援範囲は医療と介護に限定したほぼ完成された分野で、そこにわれわれが進出する意味はなく、それ以外の例えばお金に関連した相談事などをどう自分のビジネスに取り込んでいけるのかが鍵となるでしょうね。正直なところ、ビジネスモデルがないだけに、いろいろと模索しながらチャレンジしているのが現状です。

士業らで「地域包括応援隊」を組織し、地域住民へ情報発信

―包括会計事務所としての、具体的な活動についてはいかがでしょうか。

大塚 社団発足後、趣旨に賛同する全国約60会計事務所が参画しています。地域包括会計事務所の必要性や今後の地域との付き合い方については、まだまだ周知されていない分野でもあり、全国地域医業研究会の創始者でもある曾田幸之同会顧問が、社会保障制度改革の概要や今後の地域包括ケアの求められている背景等について会員事務所向けに勉強会を開催して、啓蒙活動を展開しています。それをベースに、各地域で地元の各士業や関係業者を集めて協議会や勉強会などを開催する動きが盛んになっています。事務所の入口に地域包括会計事務所のポスターを掲示したり、事務所名入りのパンフレットを作成するなど、地域住民への情報発信にも積極的な事務所が増えてきています。

―駒井先生もそのお一人と聞いていますが、実際に地域包括事務所が活躍できる場面とは?

駒井 「地域包括ケアステム」の実現に向け、平成26年に東京・豊島区内で「(一社)地域包括応援隊」を発足させました。クライアントでもある介護事業者を中心に、不動産取扱事業者、弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士ら士業で構成されています。高齢者やその家族が抱えやすい暮らしに関わる困りごとについて、生活・資産・介護・医療といった各専門家が相談に乗り、解決策を導く無料相談会を定期的に開催し、「暮らしの応援隊」として活動しています。これまでの試行錯誤的な活動から進展させ、専門家が困りごとを解決する受け皿を完成させたことで、行政へのアピールも可能になりました。

―相談内容も多岐にわたるようですか。

駒井 空き家の活用方法や施設入居に関する相談、認知症の親の相続財産の処分に絡む兄弟間のトラブル、連帯保証人に関する相談など様々です。時には、相談内容に関連する事業者との打合せに移る場合もあり、“継続は力なり”と精力的に活動を続けています。

「地域包括事務所」の意義と役割をアピールする場面増える

―行政もようやく動きだしたようですね。

駒井 はい。東京・豊島区がスタートさせた「認知症カフェ」において昨年7月に開催した認知症サポーター養成講座の運営に、はじめて「暮らしの応援隊」として参画し、相談ブースを設けるなどでアピールできました。そして今年2月には「知っておきたい介護と相続」をテーマとした公開講座で講演しました。こうした活動を地道に続けることによって、ようやく存在価値が出てくるものだと信じています。最近では、税金の相談が直接来るようになりましたが、そこからビジネスに繋がるかは今のところ未知数ですね。

―さに、目標とするコーディネータ役に近づきつつあるという感じですね。

大塚 行政の考え方等が理解できる医療や介護に詳しい事務所が組織の母体となっているだけに、高齢者の暮らしを守る生活支援においてこの分野の研鑽を積んできた会計事務所としての経営資源が活かせる。そこが他の組織と比べアドバンテージがある部分だと思います。また、医療・介護に密接な行政の動きについても、5年、10年先のビジョンを予測しながら今後の方向性等の情報も会員にフィードバックしており、税以外の分野も各包括事務所が行う研修会で話題として提供できます。行政の認知度もゆっくりですが出てきており、地域包括会計事務所の意義と役割をアピールする場面が増えつつあると実感しています。

駒井 例えば、すでに社会問題化しつつある独居老人を支える手法においても、包括事務所のネットワークで関連する支援業者の輪が拡がります。また、「認知症カフェ」の近辺で、今秋に協賛企業を募った大規模なセミナーの開催を予定しております。

大塚 医療・介護事業者だけを顧客対象と考えずに、一般市民がお客様という感覚を持って接することが大事。そうした活動を続けることで、行政側もきっと我々の存在を認知せざるを得なくなる。開業したての若い先生方にも、地域貢献活動を知る上で参考になると思うので、ぜひ、仲間に加わっていただき、業務領域を拡げて欲しいですね。

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