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最終更新日:2023-02-17

DX見据えデジタルマーケティングを構築中 マネジメントスキル向上に独自の「等級評価制度」

  • 2023/02/17
DX見据えデジタルマーケティングを構築中 マネジメントスキル向上に独自の「等級評価制度」

利益を出せる「いい会社」を作ることをミッションとする税理士法人Soogol(スーゴル、東京・台東区、代表税理士=森瀬博信氏)。スタートアップ企業の支援を中心に、毎年コンスタントに約120件の新規顧客拡大を続けている。キーとなる組織づくりには、属人化の解消やマネジメントスキル向上のための独自の戦略が光る。さらには、「デジタルマーケティング」もDX時代を見据えた施策として構築中だ。取締役の下地麻大氏(写真)に成長発展の原動力について聞いてみる。

徹底した業務洗い出しが原点

―まずは事務所の概要からお話しください。

 前身である「岐村会計事務所」「すばる会計事務所」設立から数えて今年で54年目に入ります。税理士法人であるSoogolを中心に、スーゴルマネジメント(株)やSOLU(株)などの別法人も合わせ、現在はスーゴルグループとして100名超の陣容となっています。創業支援に力を入れており、「夢」や「想い」を持った中小企業の支援を社会的使命として、「3億円企業創出日本一」を目指しています。

―まったく異なる業界からの転身というお話ですが…

 はい、会計業界とは無縁の職種から転職しました。当時は生意気のようですが、「現状のままでは、どれだけ働いても年収1,000万以上は稼げないなぁ」と思い、労働集約型である会計事務所の業務効率をどうにかして改善できないかと真剣に考えました。そして10年

ほど前から、担当者ごとに業務を洗い出し、顧問先に投入する時間とコスト意識を徹底的に見直すことを始めました。

―具体的にはどのような方法で行ったのですか

 顧問先とのお付き合いの仕方や、担当者による顧問料の設定で安価になっていないかといった確認です。ここが出発点となって、売上や利益の構造に関する現状分析に興味が湧き、役職に就かせていただくようになったこともあって、業務のありようを抜本的に見直し、税理士が提供するサービスとは何かというベースに基づいて徹底的に業務改善及び営業

改善を実施し、生産性を向上させるための環境整備に取り組みました。

 しかし、ここには担当者それぞれの能力やセンスという要素が入ってくることから、結局素直にやる人たちはどんどん伸びていきますけど、やっぱり職人気質で今までと違うことをやることに抵抗がある人は廃れていく。それを切り離していけるかというと、切り捨てるのもやっぱり違いますし、ということで現在行きついたのがデジタル化、今で言うDX化

の取り組みです。

案件の「見える化」で属人化解消へ

―見えてきたものは、一般的な会計事務所にありがちな課題ばかりですね。

 確かにその通りですね。まずは案件の「見える化」に力を注ぎました。職員別の生産性の違いは何となく認識しているものの、個々の人がそれぞれスキルアップするしかないと思い込んでしまっているところがあったのです。また、顧客別の生産性(時間当たり単価)は大枠で把握していても、多大な手間がかかってしまっている顧客に対する改善策にまでは手が回っていないなど、標準化の遅れをどう改善していくのか。生産性に関わる日々の業務状況をリアルタイムに「見える化」するしくみが重要なポイントと考えました。人が増えれば増えるほど難しくなる問題ばかりですので、こうした状況を変えるために、現在、社内でデジタルマーケティングという分野の構築に取り組んでいるところです。

―会計事務所がこの分野に取り組むケースは珍しいですね。

 まだまだパーフェクトではないですけども、いろいろと見えるようにはなってきましたね。森瀬代表にも賛同してもらいました。顧問先の過去の経営状態もデータベース化することによって、担当者では気付けなかった潜在的な課題が税理士法人スーゴルとして顕在化できることも多くあります。属人化問題の解消法として、スーゴルとして押さえておくべき項目がピックアップできることから、均一的なサービス提供も可能です。デジタルマーケティングは、時代のニーズに沿ったマーケティング手法として今後さらなる発展が見込まれます。顧客とのつながりを重視し、そこから効果的な提案に繋げられる可能性を秘めています。データベース化の推進によってサービスの質をさらに高めていこうという取り組みです。これは、会計事務所に欠けている要素で、今思えば10年前に全ての顧問先の洗い出しを行ったことがスタートとなっていますね。

―経営状況のデータベース化では、どんなツールを利用されていますか。

 「HubSpot」(ハブスポット)を使っています。これは、アメリカで開発されて国内上場企業に多く利用されているマーケティングのプラットフォームで、情報を一元的に管理するのに役立ちます。顧問先が1千社以上になると、アナログで情報管理するのには無理があります。監査記録をはじめ、決算のタイミングで欲しい経営情報、例えばITリテラシーレベルがどこにあり、企業の評価制度の有無などの情報が閲覧でき、さらに決算の終わったタイミングで、申告書や簡単な粗利益、役員報酬、純資産額などの経営状況を担当者が全部記録していきます。そうした顧客情報を構築すれば、純資産額がいくら以上の顧問先が何件あるのかなどの状況把握が一目で分かります。また、事業承継の話が出ても、事前に資料を準備することができ、無駄の少ない効果的なヒヤリングに役立ち、戦略も立てやすくなります。このように、担当者の解釈や能力に依存しない構造にすべく、デジタルマーケティングのツール活用を行っているところです。

経営支援型の事務所を目指すための研修制度

―業務の標準化により、担当者によって顧問先に機会損失を与えないという構造が出来上がる仕組みですね。

ただ、担当者が絶対に力を付けなくてはいけないのは、会計・税務のクォリティです。この部分が疎かになっていては本末転倒です。事務所では独自の「等級評価制度」を導入しており、新卒だと概ね2年半、中途採用だとおよそ2年をめどに、最低限の実務知識や経験、スキルを積んでもらう「3等級」をスタートラインとしています。顧問先経営者と円滑なコミュニケーションが取れ、適切な税務・会計のサポートが出来るスーゴルとしての一人前レベルが「3等級」で、研修では経営支援の社外研修制度も導入しています。その先から、税務会計全般のオールラウンドを目指すのか、あるいは専門領域を極めるのかといったキャリアを選択できるルートを確保しています。

経営支援型の事務所としての付加価値業務の提供については、税務会計のベースを習得した職員であれば、だれが担当者になってもスーゴルとして一定のクォリティが保てれば問題はないと捉えています。

―独自の「等級評価制度」をオープンにする考えはありますか。

 あくまでスーゴルの制度ですから、一般公開はしないつもりです。相談を受けた会計事務所に事例として紹介をしたこともありましたが、うちの制度がその組織にマッチするかどうかは別問題です。なお、評価シートについては、この等級に何を期待するかを、成果責任、業務遂行責任、業務向上責任の“3部類”で測った時に、何が標準値で、プラス評価の要素とは何かといったところに、半端じゃないくらいに時間と頭を使いました(笑)。

キャリア形成に必要な教育システム

―なるほど。社内と見える化と、職員らのキャリアが選択できるようなしっかりとした教育システムがあってこそ評価制度が生きてくるわけですね。

 はい。そうした制度を確立し、顧問先ニーズに合った効果的な提案を実施するためにも、このデジタルマーケティングの考え方は重要なポイントです。まさに現在、その社内DX化を促進しているところですが、課題も少なからずあります。

社内DXを進めるにあたって、税務担当者を兼任でやらせた時がありましたが、やはり、思うように進まない。結局、DX化はある種の構造改革でもあり、単に「ツールを使います」っていう人ではなく、一緒に構造改革を楽しんでくれる人材でないとダメなんですね。結局、新たな人材を採用したことで、急ピッチに進み始めています。

 ただ、理想通りに稼働できているかといったらまだまだの状態で、次のステージに行くためには、そうしたした人材確保のほかに、正確な情報構築のための入力作業という課題も浮上しています。経営課題をあぶりだすためにも、しっかりとしたデータベースを作る必要があり、入力作業をルーチン化することは結構大変なことだと思っています。

―最後に一言どうぞ。

コロナ禍でリモートになった頃に、勤続2年目の退職がとても多くあり、ショックを受けたことを覚えています。データベース化や業務の見える化はさらに強化していかなければならない部分ですが、働き方の多様性が進む中で、コミュニケーションでカバーできる部分も重要だということを改めて思っています。

DX見据えデジタルマーケティングを構築中 マネジメントスキル向上に独自の「等級評価制度」

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