最終更新日:2021-04-13
アフターコロナの税務調査で強化される「消費税還付」やデジタル化
- 2021/04/13
国税庁では、10年後の税務行政の姿として「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」を公表し、AIを活用した税務調査を検討していくことを明らかにしている。その方針のもとに国税当局と金融機関間の事務のデジタル化に向けた実証実験が徐々に開始され、税務調査のデジタル化が進展している。現在、コロナ禍の税務調査が再開されるなか、国税当局はより効率・効果的な税務調査を実施する姿勢だ。今後のデジタル化を見据え、税務調査のスピードや情報の把握状況に変化が生まれてきそうで、税理士としては要注目ポイントだ。
気になる消費税の一斉単独調査
コロナ禍で控えられてきた税務調査が再開している。新型コロナ感染拡大の影響下では、調査官が納税者の自宅を訪れる「実地調査」は積極的にはやりにくい状況と思われる一方で、電話による「非対面」の調査や簡易な接触による机上調査には力を入れていく方針だと言われる。
そうしたなか、気になる動きとして、国税当局による消費税の一斉調査に着目したい。一例をあげると、国税当局が全国の免税店などを対象に消費税の一斉調査を行い、約80の法人・個人から計約40億円を追徴課税した。うち約30億円は「金」の買い取り業者2社への課税で、仕入れ税額控除の前提となる「金」の買い取りに関する帳簿記載に裏付けがないと判断。その結果、2019年8月期までの3年間で、過少申告加算税を含め約24億円を追徴課税(更正処分)したというもの。
この調査案件では、消費税の課税仕入れの要件である「帳簿記載の裏付け」についても興味深い一方 、「アフターコロナの税務調査」も垣間見ることができそうだ。というのも、消費税調査と言えば、公益法人は別にして、通常は法人税や所得税の調査と一緒に行われてきたが、それが今回、消費税の不正申告に特化した全国一斉調査を国税当局が初めて実施したからだ。 消費税は2019年10月に税率が変更されたほか、軽減税率制度も導入された。「ミスが増える」「2%アップで税額額が大きくなる」と、当局が睨み、消費税単独調査に乗り出したと考えられる。
効果的な調査手法を模索中
課税当局は、効率・効果的な税務調査を実施するため、新たな調査手法を模索しており、その一つが、「機能別職員」による「広域調査」の実施だ。
この「能別職員」とは、消費税や国際、源泉所得税など、ある分野に特化した職員を指し、「広域調査」は、1税務署の枠を超えた調査を指す。例えば、消費税なら、消費税専門の統括官等が、複数の税務署をまたがって調査選定を行い、問題点を絞り込んだ上で、管轄の税務署職員と一緒に調査を実施する。こうした調査が増えれば、従来より深度ある調査が実施されるのは確実で、その走りが「国際税務」と言われている。
一般的に、中小企業の国際税務の調査は、「簡易な移転価格調査」と言われ、国税局の国際税務専門官が税務署に配置され、広域調査を行っている。「簡易な移転価格調査」は法人税調査と一緒に行われるため、2~3日で調べられる範囲で行われる。専門性が高いため、国際税務専門官が調査先を選定、問題点を絞り込んでいくという。
国税当局の会議でも、「専門職職員による広域調査に力を入れていく」とされ、アフターコロナでは、こうした「専門職職員」による「広域調査」がかなり、増えてくるものと予想される。 こうしたことからも、「どのように準備調査が進められ、どのような部分を指摘してくるのか、といった研究が税理士も不可欠になってくる」(都内税理士)という。
当局、金融機関間のデジタル化に向けた実証実験
また、税務当局の動きとしてしっかり把握しておくべきなのが、税務調査に係る「預貯金等の紹介・回答業務」について、国税当局と金融機関間のデジタル化に向けた実証実験だ。
現在は税務調査や資産調査等で、行政機関による調査対象者の取引先金融機関等に対して預貯金等の照会が行われている。それらの書面による照会件数は年間で約6,000万件であり、このうち、国税関係が全体の1割に当たる約600万件にもおよぶ。これは、職員が質問文書作成→出力→返信用封書を同封し金融機関別に郵送→返送時の開封→返送文書のチェック・保存、といった人の手によるアナログ作業で、これらの負担が課題となっていた。
今回の、税務署と金融機関側をネットワークでつなぎ、預貯金の照会・回答業務をデジタル化する実証実験で、どれだけ業務の削減・効率化が図れるのかが注目される。
税務調査においてこの仕組みが普及すると、実地調査前に調査対象者の各金融機関の預貯金データを把握できることで、税務調査の効率化は格段に向上し、相続税調査においても威力を増すことになるだろう。
ただ、こうした税務調査のデジタル化について、一部の税理士の間では、「どこまで効果があるのかは分からない」とした見方が出ている。というのも、すでに現場では、必要があれば実地調査の前に必ず反面調査をしていることからも、実際に「調査の深度」が深まるかというについては、国税OB税理士の間からは懐疑的な見方も。
いずれにしても、アフターコロナの税務調査は、大きく変わると思われる。コロナ禍において影響を受けやすい会計や税務のポイントはもちろん、デジタル化を見据えた税務調査の手法や動向について、税理士として敏感になる必要がありそうだ。
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クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。