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最終更新日:2023-04-04

Vol.2 土地の国庫帰属制度の3つの要件 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

  • 2023/02/28
  • 2023/04/04
Vol.2 土地の国庫帰属制度の3つの要件 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

監修者

松尾 企晴

松尾 企晴

Land Issues (株)代表取締役

不動産コンサルティング会社のプロサーチ(株)に中途入社し、2017年より代表取締役に就任。不動産、遺産相続事業の活動を通して見えてきた課題に取り組むべく、2020年にLand Issues(株)(ランドイシューズ、東京・千代田区、HP:https://land-issue.com/)を設立。また、税理士ら士業・専門家向けコミュニティ「プロサーチ遺産相続実務倶楽部」を運営。土地に新たなる価値を作り出し、未来へつなげる事業を展開中。

1.相続土地の国庫帰属制度がスタート

前回の記事で、売れない貸せない負動産は、固定資産税や維持管理費を払い続けることになり、相続時には相続登記費用がかかり、そして所有者責任も続いていくことになるとお伝えしました。

相続放棄を選択できないお客様は代々引き継いでいくしかありませんでしたが、そこに救いの手がでてきました。それが『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、「相続土地国庫帰属制度」という)』です。

一言でいうと、【相続した土地を、お金を支払って国に引き取ってもらう】という新しい制度です。まだ始まっておらず、令和5年4月27日からスタートします。

連載第2回目は相続土地国庫帰属制度で押さえておきたい3つの要件をお伝えします。この記事を読むと、当制度を使えそうなお客様をイメージすることができます。

2.相続土地国庫帰属制度とは

現在の日本には、所有者不明の土地が九州本島の面積以上も存在すると言われています。その問題を解決するために、相続で取得した土地を国が引き取るという『相続土地国庫帰属制度』が創設されました。

【所有者不明の土地の問題】

・固定資産税を徴収できない

・土地活用したいときや、災害発生時に、所有者に連絡が取れない

・土地所有者を探すコストがかさむことにより財政が圧迫される

・管理されず荒れ果ててしまうと周辺の土地に悪影響がでる など

『相続土地国庫帰属制度』は、すべての財産を放棄しなければならない『相続放棄制度』とは異なり、相続した資産のうち要らない土地だけを国に引き取ってもらえます。つまり、土地以外の他の資産まで手放す必要はないのです。

3.制度の手続きフロー

法務省から、申請から負担金納付までの手続フローが開示されました。

ステップ⑴ 申請

まず、申請者が、申請する土地が所在する法務局・地方法務局(本局)に対して、申請書と関連資料を添付して申請することになります。

ステップ⑵ 要件審査、承認

法務局担当官が、書類や実地の調査を行います。たとえば、関係官庁に(山林計画図等)書面提出の協力を求めたり、申請地に立ち入りし申請内容と合っているかなどを確認します。審査等の結果、当制度の要件を満たしていたら法務大臣が承認します。

ステップ⑶ 国庫帰属

負担金を納付すると、国庫帰属されます。このとき、土地の所有権移転登記は職権でおこなうとのことです。

審査フローの概要は以下のようになります。

申請に関する事前相談が2月22日より開始されています。土地が所在する、もしくはお近くの法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門にて相談することができます。自分の土地は国庫帰属してもらえるのか?と具体的な質問ができるようなので、ぜひ活用したいですね。

法務局ホームページから本人や家族、親族が相談することができます。その際には、相談票や相談したい土地の状況チェックシートは必要で、その他、登記簿や測量図などの土地に関する情報をできるかぎり用意しておくと具体的な相談ができるでしょう。

詳細、予約はこちらから法務局ホームページ 相続土地の国庫帰属制度事前相談

4.3つの要件

相続土地国庫帰属制度にはヒト・モノ・カネの3つの要件があり、これらを満たさないと国庫帰属されません。お客様は「国が引き取ってくれる!」と期待しているかもしれませんが、誰でも、どのような土地でもいいわけではありません。

  • ヒトの要件

相続や相続人に対する遺贈で取得した人が申請できます。売買や生前贈与で取得していたら使えませんので注意が必要です。

また、土地を共有している場合は、共有者の中に相続等で取得した人が1人でもいたら、共有者全員で申請することができます。一例を挙げると、父母の共有名義にて売買で土地を購入し、その後父に相続が発生しその子が相続で取得。母は売買、子は相続でそれぞれ取得しているようなケースは利用可能です。

なお、制度スタート前に相続等で取得していた場合も利用できます。

  • モノの要件

土地のみで、建物がある場合は取り壊す必要があります。

国が引き取らない土地として次の10条件を挙げています。

※法務省資料を基に弊社作成。

皆様のお客様がお持ちの“負動産”も、引き取り不可の条件①~⑩のいずれかに当てはまると

いうケースがほとんどなのではないでしょうか。

もし一つでも当てはまっていれば、『申請できる状態』まで土地を整備する必要があります。

このモノの要件については第3回目に詳しくお伝えします。

  • カネの要件

国が土地を引き取ってくれる制度と言っても、無料というわけではありません。負担金を支払うことで国庫帰属されます。

法務省ホームページに負担金の計算式が載っていますのでまずはそちらをご覧ください。

法務省:相続土地国庫帰属制度の負担金 (moj.go.jp)(負担金額の自動計算シートあり)

基本的な負担金は20万円で、市街化区域内の宅地や農用地区域内の農地、山林などは20万円ではなく計算式に当てはめて計算する必要があります。

法務省ホームページに自動計算シート(Excel)があり、面積を入れるだけで算出してくれますので一度使ってみてはいかがでしょうか。

負担金計算例

引き取り時の負担金について、例を挙げて計算してみましょう。

【市街化地域内にある宅地 土地面積300㎡】

負担金は、200㎡超400㎡以下ですから、(300㎡×2,250円/㎡)+343,000円の計算式を当てはめます。計算すると、1,018,000円です。

【山林 土地面積2000㎡】

負担金は、1500㎡超3000㎡以下ですから、(2000㎡×17円/㎡)+248,000円の計算式を当てはめます。計算すると、588,000円です。

また、この他に審査手数料(現時点未発表)、建物があれば解体費用等もかかります。

以上が、相続土地国庫帰属制度の3つの要件です。

まとめ

相続土地国庫帰属制度。
売れない貸せない不動産を持っていて悩んでいる方の救世主となり得る制度ですが、お客様の多くはその存在すら知りません。

過去に相談を受けたことがあるお客様を思い出し、「相続土地国庫帰属制度」の情報を提供することが私たち専門家の役割かと存じます。    

次回は、相続土地国庫帰属制度を利用するときの注意点をお伝えします。

Vol.2 土地の国庫帰属制度の3つの要件 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

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