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    最終更新日:2023-04-04

    Vol.3 押さえておきたい相続土地国庫帰属制度の注意点 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

    • 2023/03/12
    • 2023/04/04
    Vol.3 押さえておきたい相続土地国庫帰属制度の注意点 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

    監修者

    松尾 企晴

    松尾 企晴

    Land Issues (株)代表取締役

    不動産コンサルティング会社のプロサーチ(株)に中途入社し、2017年より代表取締役に就任。不動産、遺産相続事業の活動を通して見えてきた課題に取り組むべく、2020年にLand Issues(株)(ランドイシューズ、東京・千代田区、HP:https://land-issue.com/)を設立。また、税理士ら士業・専門家向けコミュニティ「プロサーチ遺産相続実務倶楽部」を運営。土地に新たなる価値を作り出し、未来へつなげる事業を展開中。

    国庫帰属を阻むのはモノの要件

    前回の記事で、相続土地国庫帰属制度の3つの要件をお伝えしました。

    ヒト、モノ、カネの3つです。

    ヒトやカネの要件は、相続人が相続した土地であるかどうかや費用を負担してまで手放したいかどうか確認すれば概ね足りますが、モノの条件クリアはそう簡単にはいきません。

    なぜなら、国庫帰属できない10の土地条件があり(※前回の記事をご確認ください。)、一つでも該当すると不承認となったり、条件に合うように整備するなど時間と費用が掛かることがあるからです。

    連載第3回目は特に注意したいモノの条件と、負動産で相談の多い別荘地や山林、原野商法で購入した土地は国庫帰属できるのかをお伝えします。この記事を読むと、国庫帰属制度を使うには土地の情報を集め慎重に進める必要があるということが分かります。

    モノの条件の確認

    相続土地国庫帰属法

    上記1~10の条件に一つでも当てはまっていれば、『相続土地の国庫帰属を申請できる状態』まで土地を整備する必要があります。

    では、申請できる状態にするためにはどのようなことをしなければならないのでしょうか。

    1) 建物や構築物の解体(実家建物や倉庫など全て)

    2) 土地の境界を明らかにする(例:境界確定測量)

    3) 収益を目的とした使用を止める(資材置き場や駐車場など)

    4) 土壌汚染や地中埋設物の有無を調査する(地歴などの情報収集)

    5) 隣地との揉め事を解決(樹木の枝葉やブロック塀などの(被)越境物も要解消)

    6) 擁壁工事して土砂崩れが起こらないように措置する など

    どれもこれも時間や費用がかかるものばかり。

    今回は特に注意したい代表的な3つのモノの条件について触れていきます。

    ①建物が存在する土地

    国に引き取ってもらうためには建物を解体して更地にする必要があります。解体費用の目安を確認しておきましょう。

    【建物の解体費用】

    解体する場合1㎡当りの単価

    ・木造の場合:約2万円~

    ・鉄骨系の場合:約5万円~

    仮に、木造の一戸建て3LDK(90㎡)を解体するとなると、解体費は180万円ほどになります。※大型車の通行が可能かどうか、土地の形状、建物の構造(鉄筋や木造など)・面積によって変わります。

    また昨今の解体費用は、人件費の高騰、解体資材の分別にかかる費用がかさむなどで高くなっています。

    ②境界が明らかでない土地

    隣地との土地境界を明らかにしなければなりません。

    オーソドックスな方法は、土地家屋調査士の方に『土地の境界確定測量』をお願いすることです。土地面積や隣接する地権者の数などによって変わりますが、約30万円~としている土地家屋調査士が多いです。(山林の場合は、約100万円~)

    参考価格…横浜市内の一般住宅地(土地90㎡、隣接地の数は5宅地)の土地確定測量の費用は、約60万円かかりました。

    法務省から土地の境界を明らかにする図面等について参考例がでました。

    その一部を抜粋します。

    法務省HP:土地の境界を明らかにする図面等のページ

    一般的な住宅地や農地など区割りができている土地の境界は比較的分かりやすいので申請もそこまで大変ではありませんが、山林や原野など境界が分かりにくいところは大変です。

    費用もさることながら、申請者が一度も見に行ったことがないなど場所の特定すらままなりません。今後制度を使う予定がありそうな場合は、土地の境界を分かっている方が元気なうちに家族や専門家が確認しておく必要があるでしょう。

    別荘地や原野商法の土地は引き取ってくれるのか

    売れない貸せない土地の相談に多いのは、山林や原野商法(※)で購入した土地、別荘地です。

    これらは国庫帰属できるのでしょうか。

    まず、別荘地は管理組合等に管理費を支払っているケースはNGです。管理費等の支払いがない場合は申請し審査に進むことができます。

    次に、山林は造林や間伐などの実施が必要な市町村森林整備計画がある、経営管理権が設定している等の場合はNGです。これら設定がない一般的な山林は大丈夫です。

    原野商法で購入した土地は、それ自体をもってNGとなることはなく審査に進むことができます。ただし、場所特定が困難な土地が多く、土地の境界を明らかにする作業は大変になることが予想されます。

    (※)原野商法とは、「開発計画がある」「道路ができる」などと在りもしない嘘の計画を説明したり、「将来確実に値上がりする」などと期待させかなり問題のある勧誘を行ったりして販売をしたこと。

    お客様の土地が国庫帰属制度を利用できるかどうか、令和5年2月22日より法務局、地方法務局(本局)の不動産登記部門で相談できるようになりました。

    ※原則、その土地が存するところですが、遠方である場合は最寄りのところで受け付けてくれます。

    法務局HP:相続土地国庫帰属相談票

    ※法務局HP:相談前のチェックシート

    相談はインターネットで事前受付していますので、該当するのかどうか迷ったときなど利用してみるのも良いですね。法務局HP:相談対応についての流れ、必要書類の案内

    まとめ
    10の条件に該当している土地は、その整備だけで相当費用がかかりそうですね。 上記の例から、「建物があり、境界が明らかではない土地」の『相続土地国庫帰属制度』を申請するためには、審査手数料や負担金の他に約240万円(建物解体費約180万円+土地確定測量費約60万円)の負担が発生することになります。

    国は何でも引き取ってくれると、期待しているお客様もいます。

    しかし実際は、まっさらで綺麗な土地にしなければ引き取ってくれませんので、10の条件があることや、この制度を利用するためにどのくらいの費用や労力・時間がかかるのかを、専門家である皆様がお客様に情報提供し、慎重に検討していただくよう促すべきでしょう。

    次回は、国庫帰属制度の民間バージョン、売れない貸せない不動産の引き取り事業者についてお伝えします。