最終更新日:2021-03-26
税理士らで立ち上げた新組織 一般社団法人日本中小企業格付機構が目指すモノ
- 2015/06/01
- 2021/03/26
岩永 經世 氏 一般社団法人日本中小企業格付機構代表理事 税理士
柳澤 賢仁 氏 一般社団法人日本中小企業格付機構代表理事 税理士
岩永氏(写真左):会計人の業務を評価してもらえる指標に
柳澤氏(写真右):認定支援機関との協業ビジネスを提唱
平成24年11月に始まった経営革新等支援機関の認定制度。すでに全国で24,000件を超す認定支援機関が誕生し、その7割以上が会計事務所と言われるが、実際の活動は、補助金申請の代理が中心となっている程度。それも企業にとっては経営課題解消のための重要な要素には違いないが、それだけで、本当の意味で認定支援機関として中小企業の役に立つ機能を果たしているのだろうか。そうした問いに応えるべく、税理士らが中心となって、このほど(一社)日本中小企業格付機構が発足。何を目的にどんな活動で中小企業を支援していくのかについて、創設メンバーである岩永經世税理士、柳澤賢仁税理士両代表理事に話を聞いた。
まずは発足の経緯からお話しください。
柳澤 去年の年末に、私の関与先で大きな貸し倒れが出て、倒産危機になりそうな案件があったんです。「本当に中小企業間の取引は、念には念を入れても想定外のことが起きるんだな」と思いながら年を越して、今年は1月からその対応に追われていました。ちょうどその頃、まったく別件でたまたま仲間の認定支援機関と話す機会があり、なんとなく認定支援機関になって、実際にはほとんどなにもできていない自分の反省もあって、「認定支援機関として、関与先が喜ぶような具体的な仕事ってどんなものなんだろうね」というたわいもない話から始まって、いろいろと議論していたんです。ちょうどその貸し倒れの問題も頭にあった。そんなタイミングで、認定支援機関の業務をいろいろと調べていて、中小企業庁が出しているパンフレットにも記載があるのですが、認定支援機関の中小企業支援策の重要な役割のひとつに、『経営の“見える化”支援』というのがあるんですね。ただ、正直、この『経営の“見える化”支援』というのは言葉としては面白いけど、実際には中小企業の社長には響かないんじゃないか、どうやって提供すればいいんだ、という話になって、これを「格付」という形にしたら、社長にとって面白いんじゃないか、認定支援機関の具体的な業務にもなるんじゃないかという話になったんです。個人的には貸し倒れの問題も抱えていたから、そのとき、「これだ!」と思った。こういう仕組みが世の中にあれば、「うちと取引したかったら格付とってきて」という使い方もできるなと。取引先の与信がある程度分かるし、貸し倒れのリスクヘッジにも使えるんじゃないかと思ったんです。ちょうど、岩永先生が新しい会計人の組織を立ち上げていらっしゃるところで、シナジーが期待できるのではないかと思い、そのお話をしたところ、ぜひ一緒に推進しようということになり、今年の3月に機構を立ち上げました。
岩永 私のほうは、いま、昨年5月に発足させた「(株)日本BIGネットワーク(略称=Ja-BIG)」で、未来会計を事業化させる会計人のネットワーク組織を構築しようとしています。中小企業の企業価値を向上させる仕組みづくりをMAS監査という手法を通じて提供しようという取り組みです。そんな折、柳澤先生から「格付」の話を聞いたのは、確か1月の終わりごろだったと思うのですが、企業の意思決定を支援する未来会計を導入した結果、本当にその企業の価値が上ったかどうかを図る客観的な判断材料として、「格付」は面白いのではないかと感じました。成果基準を「格付」でやっていこうと。
認定支援機関の現状をどう捉えていますか。
岩永 認定支援機関本来の役割は、中小企業の成長戦略を描くような支援を行うことにあるはずです。それが、現実的には補助金をもらうための経営計画づくりが主体で、その後のフォローアップも出来ていない状況は、本末転倒ではないでしょうか。認定支援機関の目的に合った活動が、自主的にはなされてはいない証拠でもあります。厳しい見方かもしれませんが、認定支援機関の制度開始から約2年半が経過し、そろそろ“量から質”へ転換すべき時期に差し掛かっているのではないかと思います。
機構が考える「格付」とは?
柳澤 機構の格付制度は、必ずしも上位の格付を取得してもらうことだけが目的ではありません。すでに、10件以上格付を実施していますが、急成長して右肩上がりの企業が
「aaa」ではなく、逆に赤字企業が「aaa」の格付となるケースも出ています。つまり、売上や利益と格付は必ずしも一致しない。財務の健全性ですから、P/LよりB/Sが重視されます。それを顧問先に示すと、「うちのどこを改善すればaaaになれるのか」といった会話に繋がり、そこから認定支援機関である会計事務所からの新たな提案や指導業務が生まれてくるわけです。中小企業庁の言葉で言うと、「事業計画の策定支援」「事業計画の実行支援」
ということですね。もちろん顧問先が納得しなければダメですが、これを有料で提供する
ことで税理士業界の仕事が増える。それが、今回の格付機構でやっていきたいことのひとつです。
岩永 中小企業の成長戦略を描くには、海外進出を含めた市場拡大などの戦略が必須で、そのためには、対外的な信用力を増すために自社情報を広く開示し、信用力を高める必要があります。格付がよくなかった顧客がいた場合、これを無視するわけにはいきません。
経営者と一緒に経営を考えようという、本来の認定支援機関のあり方になっていくきっか
けを、機構が与えることができると考えているわけです。
具体的な仕組みについて。
柳澤 この新しい「格付」は、認定支援機関である税理士と共同で、低コストで行うことが最大の特徴です。機構の会員となってくださった会員税理士との協業で、aaaからdまでの10段階で評価し、証書を発行します。これまでの格付会社が、年商5億円以上の中小企業を対象に、50万円前後の価格で提供してきたのに対し、我々の機構では、年商制限なし、一律10万円(消費税別)で格付を付与、発行します。この10万円は会員税理士の収益になります。
組織発足後のセミナーでは、格付の元となる比較データについて、突っ込んだ質問がありました。
柳澤 おっしゃる通りです。機構の会員となって、認定支援機関として具体的な活動を
していこうと考える、中小企業支援に積極的な税理士にとっては、非常に重要なポイント
だと思います。ただ、この点に関しては絶対的な自信があり、中小企業約100万社の財務
データをベースにした定量評価に重きを置いた格付にしています。すでに会員となった税
理士の先生方に話を聞くと、「盲点だった」「ビッグデータとしてきちんとしている」「裁
量的・恣意的な評価はできない仕組み」等々の声をもらっています。
岩永 機構の存在をインターネットで知った上場企業からは、自社事業でもあるインターネットを使った電子請求書発行のプラットフォーム作りを行うなかで、いずれ請求書の
やりとりを債券化したいという要望もありました。その際に、機構が連携して格付というお墨付きを与えることが可能であれば、「安心して債券化事業を推進していける」との話もあり、関心の高さを感じました。
今年中に300事務所を集めて、1,000件の格付付与・発行数を目標に掲げていますが…
柳澤 現在、10社以上の格付証書の納品をしていますが、当初考えていた以上に喜ばれています。「競合他社と比べて、自社の置かれている位置がよくわかった」「よい格付だったので早速ウェブサイトの会社概要欄で使わせてもらった」「イメージしていたより良くなかったので、今期の格付はより上を目指したくなる」といった声をいただいています。会員税理士が増えれば、金融機関との連携ローンなども考えられます。今後は、セミナーや動画配信を使ったPRに努めて、時間はかかっても、ブランド力を高めていくつもりです。それが、当事者全員の利益につながると考えています。
岩永 格付は、中小企業支援の「入口」と「出口」。経営がよくなれば格付は上がります。これは、裏を返せば、経営者に最もわかりやすく会計人の業務を評価してもらえる指標になるんですね。我々職業会計人の中小企業支援力が評価されることにもなるのです。
岩永 經世 氏 一般社団法人日本中小企業格付機構代表理事 税理士
柳澤 賢仁 氏 一般社団法人日本中小企業格付機構代表理事 税理士
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クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。