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最終更新日:2024-06-26

税理士業務と親和性高いFPビジネスを新たな収益に 法人と社長個人の資産の見える化指導が大切

  • 2024/06/26
税理士業務と親和性高いFPビジネスを新たな収益に 法人と社長個人の資産の見える化指導が大切

会計事務所が行うFPビジネス。代表例として保険指導や不動産の提案が挙げられるが、それだけでなく顧問先は会社のお金周り全般の相談ができることを会計事務所に期待している。ただ、残念なことに顧問先の社長個人のライフプランニングまで相談に乗れている会計事務所はごく僅かだ。そこで、会計事務所向けFPビジネスをサポートする(株)マネミル代表取締役で税理士専門経営パートナーの亀山陽平氏(写真)に、FP事業を行う意義やその進め方のポイントを解説してもらう。


税理士先生から「新NISAがスタートして、顧問先の社長から資産形成や資産運用についての相談が最近増えてきました」という声を聞きます。社長から銀行や証券会社から提案された金融商品の内容について、意見を求められることもあるかと思います。
このような相談を受けた場合、先生やスタッフの皆さんは、どのようなアドバイスをされていますか?「頼りにしてもらっているから、何とかお役立ちできるアドバイスをしたい」と思っている先生が多いのではないでしょうか。
会計事務所は中小企業経営者にとっての経営参謀です。税金だけでなく、お金回りの相談が何でもできることを会計事務所に期待している経営者が多くいます。野村総合研究所のアンケートでは、実に60%を超える経営者が日常の相談相手として、税理士・公認会計士をトップに挙げていることからもわかります。
新NISAがスタートして、経営者の資産形成ニーズが高まっている今だからこそ、会計事務所にしかできない顧問先支援業務があるのです。それが、法人と社長個人の資産管理について総合的にアドバイスをするFP業務です。
既に保険代理店をやっていたり、不動産事業に取り組まれている事務所もあるかと思います。ここでお伝えするFP業務は、顧問先に保険や不動産を提案していきましょう、といった単純なことではありません。より大きな視点で考えてほしいのです。法人の決算書を作成して、財布事情をよく把握している会計事務所の強みを活かした、付加価値業務となります。
私自身が12年で1,200名以上の経営者の資産戦略を構築してきた経験から、共通して経営者から相談を受ける悩みがあります。それは「事業で稼いだお金が意外と残っていない」という悩みです。この悩みは、たとえ黒字で利益が出続けている法人でも同様です。経営者の39.4%が資産額600万円未満といったデータもあります。(出典:「経営者の報酬と資産状況に関する調査」株式会社ファンク)
だからこそ、経営者には「法人と社長個人の手残り資産をいかに増やすか」という共通したニーズがあります。そして、このニーズに対応できる最適なパートナーは、間違いなく税理士です。
そこで、税理士業務との親和性が極めて高いFPサービスを事務所に導入する3つのポイントをご紹介します。

FPサービスのコンセプト設計

前述したようにコンセプトは「法人と社長個人の手残り資産の最大化のサポート」となります。経営者のニーズにダイレクトに訴求することが、サービスを広めていく上で大切なポイントです。
さらに、法人のBS(貸借対照表)とPL (損益計算書)だけでなく、経営者個人のBSとPLを作成することも、オーナー経営者の資産管理を行う上では大切になってきます。多くの会計事務所では、この点は手付かずになっていることが多いです。個人資産も把握することで、事務所の付加価値アップや相続サービスへの展開も可能となります。
経営者が勇退後も豊かな老後生活を送れるように、資産管理をサポートしていくことは、非常に喜ばれます。そして、サービス内容をしっかりと構築していくことで、顧問先1件あたりの単価アップも実現可能となります。

社長個人の収入・支出のキャッシュフロー提案書

FPサービスでは具体的に何を行うのかをご説明します。決算前に利益が出たから、保険やオペレーティングリースなどの節税商品を提案するだけだと、経営者からは満足してもらえません。そもそも節税保険は、2019年2月に国税庁からメスが入り、節税の観点で効果的な保険はほとんどなくなっています。
会計事務所がFPサービスを顧問先に提供していく際の最初のステップは、「現状の資産の見える化」が有効です。ここで、法人のBSとPLだけでなく、社長個人のBSとPLを作成することになります。大半の経営者は、自身の資産がどこにいくらあるのかを明確に把握できていません。だからこそ、現状の資産を見える化して、整理してあげるだけでも、大きな付加価値になります。オーナー経営者にとって、法人と個人の資産を一体管理してあげることは、手残り資産を最大化する上で重要です。これをやってくれる人は他にいないため、重宝されます。銀行・証券・保険・不動産の営業マンなどは自社の商品を売ることだけに関心があり、お客さんの資産の全体把握をすることはしません。だからこそ、公正中立な立場にある会計事務所が重要な役割を果たします。
次に行うことは、「社長個人のキャッシュフローのシミュレーション」です。現状の資産を見える化して、収支を計算していくと、老後の資産が不足しないかが明らかになってきます。「お金が意外と残っていない」と悩んでいる社長の多くが、本人が自覚していない使途不明金が多いものです。さらに、昨今のインフレもシミュレーションをする上では考慮する必要があります。生活レベルは同じでも現状のように3%ずつインフレが進んでいくと、5年後、10年後の支出の金額は想像以上に大きくなります。インフレをシミュレーションに組み込むと、老後の資産がマイナス=老後破産となってしまう社長も少なくありません。
それでは、老後破産をしないためにどうするのか?ここで税理士さんの提案力が問われます。まずは本業の売上と利益を上げていくこと。これは法人にお金を残すためにも、個人で役員報酬をしっかりと取るためにも、絶対に欠かせないことです。本業を成長させるという現実から逃げて、怪しい投資案件や節税ばかりをしている社長は、お金を失ってしまう人が大半です。
そして、事業で稼いだお金をどう使うのか?お金に働いてもらう意識を持つことが大切です。そこで、大切になることが「資産ポートフォリオの作成」です。資産が現預金だけの場合、インフレが進んでいくと現預金の価値は下がってしまいます。また、保険や不動産など一部の資産に偏っていることも問題です。資産を守る上で大切なことはバランスです。法人と社長個人ともに資産ポートフォリオを最適化して、改善後のキャッシュフローシミュレーションを提示することで、社長は安心してくれます。漠然としたお金の不安は、資産の見える化とキャッシュフローシミュレーションで軽減されます。

報酬体系について

税理士さんからよく相談を受けることは「顧問料の範囲で何でも請け負ってしまい、所長やスタッフが忙しくなるばかりで、事務所収益が上がらない」といったことがあります。これでは所長やスタッフが疲弊してしまい、サービス提供の継続が困難です。私は提供した価値に対しては、正当な対価を受け取るべきだと思います。
実際にFPサービスを提供しているパートナーの会計事務所では、税務顧問料とは別に毎月5万円~20万円のFPサービスの料金を受け取っています。料金を受け取るためには、前述したサービス内容を明確に伝えて、「価値の見える化」をすることが大切です。経営者が重視することは費用対効果ですので、支払うコスト以上にリターンがあるサービスだと認識してもらえれば、税務顧問料以外にFPサービスでも報酬を受け取ることは十分に可能です。
これら3つのポイントを押さえることで、他の事務所と差別化できるサービスを提供しながら、単価アップが実現可能となります。日常業務で忙しく、手が回らないという方は外部の専門家と提携をして、FPサービスを導入することも効果的です。顧問先満足度をさらに上げて、事務所の新しい収益の柱にもなるのがFPビジネスです。

プロフィール
株式会社 マネミル代表取締役 税理士専門経営パートナー 亀山 陽平氏
青山学院大学経済学部卒業。その後、一部上場保険会社にて税理士のサポート営業に従事。 税理士事務所の所長・幹部・スタッフと9年間で延べ 5,000回以上面談し、2015年度に全国No.1の実績を挙げる。現在は、税理士事務所専門で収益アップとスタッフの定着・育成のサポートを行っている。税理士事務所、不動産会社などで資産形成・運用などの講演、セミナー研修を実施。顧問先・スタッフの数を変えずに、事務所売上を20%アップさせる「三本柱経営メソッド」を開発。主な資格は、国家資格FP、TOEIC 915点。主な著書に『金持ち社長貧乏社長』(セルバ出版)がある。

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